大後悔時代

大好きなアイドルのこと、日常の変だなと思ったことについてぼちぼちと。

採用サイト先輩社員インタビューに答えて感じた、企業が求める「女性らしさ」

 

3月1日から16年卒の就職活動が幕を開けた。

12月から開始された私達の頃よりも短期決戦になるため、学生側にも企業側にもより効率的な戦略が必要とされる、らしい。手当たり次第にマイナビリクナビでエントリーを繰り返し、膨大な返信メールを裁き、変わり映えのしない採用ホームページを熟読し、夏に行ったインターンのエピソードを織り込みながらエントリーシートを埋め、締切までに返送する。正しく就活は情報戦である。氾濫する情報から自分の欲しい情報や有用な情報を取捨選択し、うまく利用できるかどうかに成功の鍵があると言っても過言ではない。

シューカツと聞くだけで怖気が走り、街で真っ黒いスーツに真っ黒の髪の毛をきっちりまとめた白シャツの女の子を見かける度に気分が落ち込む程度には就活には良い思い出がないので、今もあまり就活事情には深入りしたくない私だが、現在就活戦争に参戦している若い学生、特に総合職採用を主に考えている女子学生の皆様にこれだけは伝えておかねばならないと思うことがある。

「採用サイトの先輩社員インタビューはメディアリテラシーを総動員して話半分で読め」、ということである。特に無駄に歴史が長くて体制の古そうな企業は要注意だ。

 

 

1月某日、私は人事部に「新卒採用サイト」に掲載する「先輩社員インタビュー」に協力してもらえないかと白羽の矢を当てられてしまった。女性初の総合職だから、という理由らしい。しかも今年度はコンサルタントを雇い、採用サイトのデザインを一新して就活生にアピールするのだということだった。それならば致し方ない、男女共同参画社会という理想を信じて入社してくる可哀想な後輩を一人でも減らすために協力するか、と重い腰をあげた。

まずはWordで送られてきた質問に、文章で回答するところから始まった。内容は「現在携わっている業務内容は?」や「会社の魅力は?」、「一日のタイムスケジュールは?」など、よくある質問ばかりであった。こうして私達が書いた原稿をコンサルタントが手直しして、サイトに掲載するらしい。女子学生にとって有用な内容になるよう少しは意識したつもりだが、なかなかに骨が折れた。

中でも「会社の魅力は?」が一番難しかった。ジェンダー観も体制も古臭いし、上司にはセクハラ野郎がたくさんいるし、魅力らしい魅力と言えば日生劇場まで20分の立地条件くらいではないか、と思ったがそれはあまりにも素っ気ない。「優しい人が多いことです。入社後の教育係には、女性だからと気を遣って女性の事務職の方をつけて頂きました」と書き足した。全き嫌味のつもりだった。総合職の教育係に事務職をつけるなんておかしい、と私は入社直後から思っている。同じ部の総合職の男性には総合職の男性が教育係としてついているし、総合職男性の教育係に事務職女性がつくのはおかしいではないか、と。だから人事部からはNGが出るだろうと思ったし、同時に検閲を通ってこれを見た女子学生が「この企業おかしいな」と思って踵を返してくれたらいいとも思った。

 

原稿を提出して暫く後、コンサルタントの男性二名が来社して原稿に関しての対面インタビューを受けた。当たり障りのない業務内容についての質問を一通り終えた後、彼等は本題に入ろうと言わんばかりに斬り込んできた。

「さて、あなたは女性初の総合職ということですが、大変でしょう」

「ええまあ、そうですね。会社としてもどう扱っていいかわからないところもあるらしくて」

このインタビューには人事部も同席していたので、教育係の問題については具体的に言及することができなかった。そうでしょうね、と同調する柔和な笑みを浮かべたインタビュアーは続けた。

「この男性社会の中で、女性らしさをどう活かしていこうと考えていますか?」

きたよこの質問、と思わず苦笑いが漏れた。

女性らしさを、活かす。その発想は私の中でとうに死んでいた。少なくとも対等に渡り合うことが求められるビジネスシーンにおいては、男性社会の中で女性らしさなどクソの役にも立たない。まず外見が女性だとわかったが最後、人間扱いしてもらえないことが多い、と何となく実感していた。

ならば対等に渡り合おうとするのでなく、男性ばかりの映画撮影現場でわざとヒールを履きスカートを纏いキャラ物のボールペンを使った蜷川実花のように、女性らしさを武器にして違うアプローチを仕掛ける方法も、勿論あるのだろう。ただ今の私にはその戦い方で武器となる可愛らしさや細やかさに欠ける自信が大いにある。男にもなりきれず女にもなりきれない、中途半端な存在だ、というのが今の自己評価である。

そもそも彼等の言う「女性らしさ」とは何なのか。にこにこ愛想よく振る舞うことなのか、細かい気遣いを見せることなのか。勿論そうしている方が周りに気に入られるだろうが、それは性別を問わない話だろう。わざわざ女性の特権・得意技みたいに取り立てて言うことでもない。だからこの手の質問には模範解答なんかしてやるもんか、という妙な反骨精神が働いた。

「私は愛想もないし気も利かないし細かい数字もよく間違えるがさつな人間だし、活かせる女性らしさもないんですよね」

自虐的に笑って答えたが、インタビュアーの手は動かなかった。これは欲しい答えではないらしい。

「でも、愛想がないなんてことはないですよね、笑った顔と、声も、ころころした感じでかわいいですよね」

こう返してきた。一生懸命私のことを褒めてくれたのが少し嬉しくて、ちょっといじめるのが可哀想になった。私もちょろいものである。

「確かに現場にお邪魔した時に、そこの方に『現場には女性がいないから、電話した時に女性の声だと安心する』とは言われたことがあります。だから電話対応の時には思いきり声を高くしてかわいこぶるようにはしています」

こう言うと、インタビュアーの手はさらさらと動いた。その時に女を観葉植物や愛玩動物みたいに思ってんじゃねーよ、なんてちょっと嫌な感情を抱いたのは内緒にしておこう。

社内でも取引先でも今回取材にきた彼等も、会う男性皆誰もが大変でしょう、なんて同情めいたことは言ってくれるが、実際のところ理想的な女性像を押し付けてきてこっちを大変な目に合わせてるのはそっちなんだぞ、と思いもした。

女性初の総合職にきらきらした箔をつけられない、こんな黒髪眼鏡のもさい不細工でごめんなさいね、と心の中で舌を出しつつも、「本日はありがとうございました」とお辞儀をして、私は離席した。

 

それから一週間とちょっと経って、先方から原稿が返ってきた。チェックを入れて問題なければそのまま掲載されるとのことだった。

さていざ目を通して見て、私は愕然とした。私の素っ気ない原稿が、まるで女性誌みたいにきらきらしている。当時の呟きを引用する。

これは内容に加えてライターの文章力の低さに愕然とした。

この「『あ、安心感を感じてもらってるな』と感じます」というエロ漫画に登場する処女もびっくりの感じすぎている一文は、私が書いたものではなく、電話対応時に女性らしさがプラスに働くエピソードとして先方が挿入してきたものである。女性の声を聞いた彼等が感じている「安心」とは、つまり「こいつになら強く出ても大丈夫」だとか「こいつにならあんまり丁寧な対応しなくても大丈夫」だとか、より貶められる相手に当たったことで肩の力を抜いていられるから生じるものなのでは、と私は考えている。ただ舐められているだけなのに、それが良いこととして書かれているのが腹立たしかった。

加えてよく社内の校閲を通過したなと思える重ね言葉である。文筆業を志していた身としては、これを書いた人間がこの文章でお金をもらえるのはかなり羨ましく感じた。

さらにここまでくると被害妄想的だと自分でも思うが、「『あ、~な』と感じます」という文体は私が女だからより柔らかさを演出するために採用されているように思えた。ちなみに私の元原稿では一度もこういう書き方をしていない。きっと私が男だったら先方もせいぜい「安心感を感じてもらっていると感じます」くらいに書いていただろう。実際のところ、他の男性社員のインタビューにはこの文体は登場していなかった。

上記のように、タイムスケジュールの元原稿の書式はこんな感じだった。

8:45 出社

9:00 受注入力

11:00 見積り

12:15 昼食

13:00 外出

15:00 帰社、見積り

16:00 売上

18:00 退社

それがどうしたことだろう、それぞれに「細かいところまでしっかりチェックします」だの「今日は女性同士で外でランチ」だの「お客様と趣味の話で盛り上がりました」だの「大好きな観劇へ。平日のオフが充実していると明日も頑張れる気がします」だの、女性誌の日替わりコーデのコピーみたいなエピソードがくっついている。しかもこのエピソードは対面取材の時にだって話していない、先方が勝手にイメージした虚偽の内容だ。

特に腹立たしかったのは昼食のエピソードだ。弊社の周りには気軽に入れるレストランがない。その上昼休みも45分しかない。そうそうお財布を持ってランチに出かけることなどできない。実際に私は入社以来そんなことをした覚えはない。大抵の社員は持参するか、コンビニや弁当屋で調達して社内で食べている。

次に鼻についたのは「退社後」に付記された「アフターファイブが充実しているOL像」の押しつけエピソードだ。実のところ終業後観劇しに行ったことは二回程あるからまるきり虚偽だとは言えない。だが「平日のオフが充実してると~」とは一言も言っていないし、こんな文章他の男性社員の退社後エピソードには書いていないしで、また女だからこんな書き方をされたんだ、といっそ侮辱されたような気分になった。

実情と違いすぎる、どこぞの理想のOLイメージを切って張り付けられた感じが、とにかく嫌だった。気が利いて、友達関係も良好で、衣食住が充実していて、趣味に打ち込んで、そんなきらきらしたキャリアウーマンの姿が描かれていたが、それは「私」ではない。この男性社会の中で女性の身の私が考えていること、感じている本当のことは、全く求められてないのだ、と感じ、これが報道か、と失望した。

さらには「当社の魅力」として「教育係に女性事務職をつけたこと」はしっかり生き残っていた。気分は(何故お前がここに……死んだと思っていたが、そうか……)と低く呟くバトル漫画のキャラクターである。

 

私は上記の問題点全てを人事部にぶつけた。先方のライターの嘘八百についてはより真実に近い代替エピソードを提案してもらうことで話がついたが、教育係の選定については「これは弊社の優しさだから」という判断でそのまま掲載されることになった。こうなってしまったからには、一人でも多くの女子学生が私の示す警告に気付いてくれることを祈るばかりである。

 

こうして弊社の採用サイトは完成し、現在絶賛公開中である。

ちなみに私はジェンダー的な押しつけがましさに少々過敏なまでに反発しまくっていたので大袈裟にとられるかもしれないが、最終原稿チェックの時点で人事部に文句をつけていた男性社員もいたので、虚偽の情報が盛られるのは性別に限らないことのようだ。その点は就活生全般に気を付けて頂きたい。妙にきらきらしたスケジュールは大体嘘だと言っていいだろう。きっと。弊社だけがそうだと信じたくはない。

 

 

繰り返すが、就活生に言いたいのは「採用サイトの先輩社員インタビューはメディアリテラシーを総動員して話半分で読め」ということ。特に女子学生。こうやって下手な採用担当者の手が入っていると、男性の変な理想を押し付けられたきらきらした女性像をつきつけられます。

こうした情報戦線に打ち勝ち、自分の満足が行く業務内容かつ、少しでも社内環境が整った企業に入社できるよう、陰ながら応援しています。