大後悔時代

大好きなアイドルのこと、日常の変だなと思ったことについてぼちぼちと。

乙女ゲームの棚の前にいたら変な男の人に絡まれた話

渋谷TUTAYAの地下二階中古ゲームコーナーでのこと。

 

私はPSP戦国BASARAがプレイできるソフトを探していた。

目当てのものはすぐに見つかったが、「バトルヒーローズ」と「クロニクルヒーローズ」とふたつ種類があり、どこがどう違うのか、初心者はこっちから始めるべきなのか、その情報を探しに、数歩横の乙女ゲームコーナーで足を止めスマホに目を落としていると「すみません」と声をかけられた。

 

しまった邪魔だったか、と慌てて顔をあげたらそこには男の人が二人いた。今となっては顔を思い出すこともできないくらい、何の印象にも残らない、至って「ふつう」の人だったように思う。

そのうちの一人、「すみません」と発話した方の人は乙女ゲームのパッケージに手を伸ばそうとしていた。男性の乙女ゲームプレイヤーなのか、と思ったのも束の間、その人は私に「こういうゲームやるんですか?」と訊いてきた。

どうもPSP版BASARAはシステムもゲーム性もクソで、据え置きのをやるべきらしい、という情報を掴んで、さてどうしようか、と考えていたから、一瞬、頭がついていかなかった。

乙女ゲームをやるかどうか。その答えは、是だ。しかし私はそれを言うのを躊躇った。

何故わざわざそのようなことをこの初対面の男の人が訊いてくるのか。ナンパの類か、それとも乙ゲープレイヤーを馬鹿にしようとしているのか。私は咄嗟に後者だと思った。向こうが二人で、こちらがひとりだったからだ。前者にせよ、関わりたい手合いではない。戸惑いの後に襲ってきたのは恐怖だった。

 

「俺こういうゲームやったことなくて。面白いんですかね?」

彼はそんな私の気持ちを知ってか知らずか、にやにやと笑いながら薄桜鬼のパッケージを摘まんで裏返し、棚に戻した。

「面白いんじゃないんですかね、(薄桜鬼は)やったことないですけど」

主語をぼかして自己保身に走ってしまうのが情けなくて仕方なかった。乙女ゲームは面白い。そうはっきり言えたらよかったのだが、向こうの真意がわからない恐怖と、ひどく傷つけられるのではないかという恐怖で、当たり障りのない回答しかできなかった。彼は別のパッケージを摘まんでは裏返し、また棚に戻している。

「ふーん。どんな感じなんですかね、こういうのって。楽しいんですかね」

そういう彼の顔は、楽しいと思うなんておかしい、と言いたげににやにやしていた、ように思う。逆に私が、何故乙女ゲームを楽しいと思わないのか、インタビューしたいくらいだった。ただそれを実行するにはあまりにも怖かったので、男性にもわかりやすく乙女ゲームの楽しさを伝えるにはどうしたらいいか、ぱっと思いついた答えを口にする他なかった。

「ギャルゲーの、男女逆転バージョンだと思いますよ」

「へー」

こいつは乙女ゲーマーじゃなかった、当てが外れたとでも思ったのだろうか、彼のインタビューは突如として終わり、二人はさっさと私から離れていった。

よかった、特に何もされずに終わった、とほっと息を吐いた私の心臓はばくばくしていた。めちゃくちゃに怖かった。

 

その場にいるのも落ち着かなかったので、売り場をぐるりと一周して、結局戦国BASARAは安価だった「バトルヒーローズ」の方を買うことに決めて、会計をして店を出た。冷静を取り戻した頭で先ほどの出来事を反芻し、これを一言で説明するなら「痴漢にあった」だと思った。

 

彼等は目についた乙女ゲームをやりそうな女性ヲタクに片っ端から声をかけているのだろうか。一体どのような気持ちでそんなことをしているのだろうか。ギャルゲー好きな男性ヲタクにも同じようなことをしているのだろうか。

そうして考えれば考える程、インターネットに氾濫している「腐女子ならば叩いてよし」メンタルで彼等は行動していたように思えた。勿論この場合の「腐女子」はヲタクの女性全般を指示する誤用だが。

軽薄な恋愛ストーリーとイケメンに萌えているスイーツ脳のヲタク女を馬鹿にしてやろう、という思いがあったのだろうと私は推測する。そしてそれは肉体的強者であることを笠に着た何とも卑劣な行為だと断言する。きっと彼等は男性ヲタクには同じように声をかけないだろう。どうして自分が乙女ゲームをやる女性を嫌悪するのか、考えたこともないだろう。

 

腐女子だから、ヲタクの女だから、叩いていいなんてことは有り得ない。だからこそ彼等に屈服するような姿勢を取ってしまった自分が悔しい。もっと毅然とした態度をとれなかった自分を反省している。

 

乙女ゲームは面白い。色んな攻略対象がいる。彼等に地道に接触して、 地道に話を聞き出して、地道に好感度を上げてイベントを起こして、過去のトラウマだとか今抱えている悩みだとかを聞いて、まるごと受け入れてあげて、懐かせていく。そうした緻密な作業が面白い。さらに世界観や攻略対象の人格・トラウマについて考察していくのも面白い。

だからこそ、個人的には人間関係の構築の過程やストーリーが丁寧に作られている作品が好きだ。中でも「遙かなる時空の中で」シリーズはかなりおすすめである。初心者の方には3をおすすめする。

 

 

なあんて、彼等にプレゼンできたらよかったのだが。

その機会は次にとっておくが、その次が永遠に訪れないことを祈るばかりである。

 

男遊郭

男遊郭

 

 ちなみに彼が二回目に見ていた乙女ゲームがこちら。

男性ばかりが生まれる世界で、男性が遊郭で働いていて、ヒロインはその客として接近するという設定らしい。今最も気になっている乙女ゲームのタイトルである。